資金調達の視点から見る東証システムトラブル

東京証券取引所で発生したシステムトラブルに関し、その事態を重く見た金融庁は、今週、親会社の日本証券取引所グループと東証に対し、最発防止の徹底を命じる「業務改善命令」を出しました。

今回の東証のシステムトラブルにおいて、株式の売買を行う投資家への大きな影響について多くのメディアが報道していますが、資金調達を行う企業の立場からの議論はほとんど聞かれません。

企業の資金調達の視点からも、これは、最悪の事態になりうるケースとなります。

今回は幸いにも、市場に大きな影響を及ぼさず、翌日システムが復旧し正常に戻りましたが、もし、市場が暴落するような混乱が生じた場合、資金調達は一旦中止となる可能性があります。

そのような事態が生じた場合、それは、企業経営に大きな影響を及ぼします。予定されていた資金調達で得た資金は、債務の返済、今後の成長のための投資等を目的としていいますので、資金調達を前提に策定した経営戦略に大きな変更が余儀なくされるからです。

資金調達を行う場合、常々、Force Majeure (フォースマジュール) のケースを詰めておく必要があります。これは「当事者のコントロール外(不可抗力)の事象が発生した場合」であり、例えば、天災(地震、台風等)、戦争、テロ等などがそれに当たります。

しかし、資金調達を実行する際のリスクファクターとして重要なこの点について、引受証券会社の担当者が、私が関わっていた発行体である企業側に対し、十分な説明をしなかったケースを経験したことがあります。

資金調達の実行の可否に大きなインパクトを与えるにもかかわらず、「まさか、起きないだろう」という考えが通用しないのは、資本市場に携わっていれば、歴史がそれを証明しています。中東での戦争やアメリカ同時多発テロ、そして、日本国内においても、阪神淡路大震災、東日本大震災はまだ記憶に新しい事象です。

企業の経営において、最悪の事態をリスクとして想定しておく必要がありますが、それは、ファイナンスにおいても同様なのです。

相原 滋樹Shigeki Aihara

ジュピター・アンド・カンパニー株式会社 
代表取締役

ゴールドマン・サックス証券会社にて20年間勤務し、同社アジアパシフィック担当財務責任者を務める。2011年ジュピター・キャピタル・マネジメント株式会社(当時)を設立。RIZAPグループ株式会社財務戦略のサポートに従事し、2018年株式会社ウイルグループ執行役員CFOに就任。2021年株式会社お金のデザインChief Strategy Officerに就任。

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