ゲームチェンジによる自動車産業のパラダイムシフト

世界の脱炭素社会への潮流のスピードが速くなるにつれ、自動車産業において、これまでのガソリン車からEVへのシフトが加速しています。

昨年、テスラの時価総額がトヨタを超えて自動車メーカーの中で世界首位に立ったのは、金融市場が、将来の自動車産業の景色をこのように見ているということだと思います

自動車産業に長年携わる友人・知人から、「EVは誰でも作れてしまう」と聞きました。

私は自動車業界の専門家ではありませんが、要は、将来、EVの車は「ファブレス」で作れるようになり、自社で車の生産工場を持つ必要がなくなるということかと思います。

例えば、先日発表されたソニーのEVも、ソニー自身が全て製造していません。EVに参入すると言われているアップルも、自社でEVを製造することはなく、iPhoneと同じように自らは設計に専念して、生産は外部企業に委託するのでしょう。

更に、アップル、グーグルといった企業群がEV生産に参入してくると、車の設計思想は、既存の自動車メーカーとは大きく変わると思います。

パソコンで起きているように、車が単なる「ハコ」となり、その付加価値は、「ハコ」に搭載される通信、アプリケーションによって生み出されるようになるのではないかと思います。

そうなると、これまで日本が世界をリードし、日本経済を支えている今の自動車産業が、車という「ハコ」を作る下請けメーカーとなってしまうのではないかと危惧します。

これまでは、車の設計・製造には蓄積された技術力が必要で、それが大きな参入障壁となっていましたが、自社の工場で生産してきた既存の自動車メーカーにとって、近い将来、それらが逆にコスト増の重荷となり、その構造的な変革を求められるのではないでしょうか。

これは、よく考えるまでもなく、自動車産業固有の話に収まりません。テクノロジーの進化によって、あらゆる業界の垣根が低くなり、どの業界においても他業界からの参入が当たり前のようになっていくと思われます。

私が以前属していた、ITとの親和性が高い金融業界では、すでに、その大きな波が打ち寄せており、支店の数が競争力の源泉だった銀行業界が、その支店網を維持するコストが重荷となり、支店の統廃合、無人化を進めている光景と重なります。

とはいえ、今のところ、車作りに関しては、新規参入企業を既存の自動車メーカーがリードしていると聞きます。

そうであるならば、そのアドバンテージがある今のうちに、新たな方向へなるべく早く舵を切り、新規参入者が追いつけないスピードで、自らを変えていく必要があるのではないかと思います。

相原 滋樹Shigeki Aihara

ジュピター・アンド・カンパニー株式会社 
代表取締役

ゴールドマン・サックス証券会社にて20年間勤務し、同社アジアパシフィック担当財務責任者を務める。2011年ジュピター・キャピタル・マネジメント株式会社(当時)を設立。RIZAPグループ株式会社財務戦略のサポートに従事し、2018年株式会社ウイルグループ執行役員CFOに就任。2021年株式会社お金のデザインChief Strategy Officerに就任。

一覧へ戻る