TOEICは何点?

高校生だった娘から、

「パパは、TOEIC何点?」と聞かれ、

「受けたことないよ」と答えると、

「え?」

「受ける必要なかったし、受けるように言われたことも一度もないし……」

一瞬、二人の間に沈黙が流れました。

彼女が子供の頃から、外資系証券に勤める父親が、ネイティブではない英語で仕事をしていたのを見てきて、高校生になって、初めて彼女自身がTOEICを受けたことから、父親の点数の品定めをしようと思ったのでしょう。

「じゃあ、受けてよ」

「……」

娘に言われ仕方なく、10代、20代の子たちにまじった会場で受験。

その時は、既に外資系証券を退社して5年以上が過ぎ、そして普段、英語を使う機会もほとんどなくなっていた中での受験でしたが、結果は800点台。

新卒で入社した時、英語がほとんど出来なかった自分でも、20年間毎日真剣勝負の中、グローバルな業務環境で仕事をしてきたことによって、ある一定のレベルを維持することが出来ていることを確認できた機会となりました。

しかし、900点を目指して、あと数十点スコアを上げるために時間と労力をかける必要は自分には全くないと思う一方、グローバルビジネスの土俵で戦うには、TOEICという物差しでも800点以上ぐらいは必要なんだろうなと、実際に試験を受けてみて感じました。

世の中に出回るTOEICなどの英語の試験は、あくまで、その時の自分のレベルを確認するための方法の一つであって、点数を取ることが目的ではありません。

言い換えれば、ある一定レベルの得点を取ることは必要条件ですが、コミュニケーション能力を向上するための十分条件ではないということです。

先日、米国のトップビジネススクールの一つである大学の担当の方と食事をした際、日本から来た学生の中には、試験の得点と英語でのコミュニケーション能力の相関性が低い人たちが少なくないという話を聞いた時、自分も学生時代に経験してきた試験偏重の問題の本質がまだ残っているのかと思いました。

すでに、この課題を克服しようと舵を切っている日本企業も存在していますが、いわゆるグローバル人材を育成していく上で、言語としての英語力向上に偏った教育では十分ではありません。

コミュニケーション能力向上のためには、言語力の先にある、試験では測ることが出来ない領域があることを認識することが重要です。

相原 滋樹Shigeki Aihara

ジュピター・アンド・カンパニー株式会社 
代表取締役

ゴールドマン・サックス証券会社にて20年間勤務し、同社アジアパシフィック担当財務責任者を務める。2011年ジュピター・キャピタル・マネジメント株式会社(当時)を設立。RIZAPグループ株式会社財務戦略のサポートに従事し、2018年株式会社ウイルグループ執行役員CFOに就任。2021年株式会社お金のデザインChief Strategy Officerに就任。

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