3.11 二つのクラシックコンサート 〜楽団トップと指揮者のリーダーシップ〜

一昨日の3月10日の夜、NHKドキュメンタリー『3月11日のマーラー』を観ました。この番組は、東日本大震災が起きた当日、新日本フィルハーモニー交響楽団が、すみだトリフォニーホールで予定されていた公演を決行した様子を追ったものです。それを観ながら、昨年、日本フィルハーモニー交響楽団の平井理事長から、大震災が発生した同じ日の夜、同様にサントリーホールで公演を決行したお話を伺ったことを思い出しました。

「音楽家に何ができるのか」という問いに向き合い、公演実施を決断された両楽団。

東日本大震災という未曽有の大災害が発生した当日に公演を決行するというのは、オーケストラとしては極めて異例のことであり、その判断に至るまでには多くの議論や葛藤があったことが想像されます。

実際、二つの交響楽団それぞれの理事長は、公演を実施するかどうか、そもそもの「ステージに立つ場」を提供するかどうかという組織的かつ社会的なリスクと責任を担い、オーケストラの経営面や安全確保、スタッフの動員、会場や関係各所との調整など、多岐にわたる判断が必要な中、ギリギリの判断を下したのではないかと思います。

この日、新日本フィルハーモニーを指揮したのは、ドキュメンタリー番組でインタビューに応じていたダニエル・ハーディング。日本フィルハーモニーを指揮したのは、アレクサンドル・ラザレフ。

大きな地震を経験したことがほとんどない二人の指揮者は、余震が続く震災直後の混乱の中でタクトを振り、精神的な不安や動揺が続く演奏者たちを音楽面・精神面の両方から支え、最高の音楽を創り上げました。その心境を想像するだけでも、言葉にできないほどの感慨が込み上げてきます。

理事長と指揮者、それぞれの立場で責任を背負いながらも、共に信頼を基盤とし、同じ方向を目指して、決断と行動をとったリーダーシップ。

結果として動揺や不安を乗り越えられたのは、トップおよび指揮者それぞれへの“信頼”が根底にあったことが重要だったのではないかと思います。

理事長は、オーケストラやスタッフ、関係者から「最終決断を託せるだけの信頼」を得ていなければ、公演の実行は不可能だったと思います。一方、指揮者は、演奏中は絶対的なリーダーであり、動揺しているメンバーに「この人が指揮していれば大丈夫だ」と思わせるだけの音楽的・人間的な信頼感がなければ、この危機的な状況での演奏の統率は難しかったのではないかと想像します。

震災から14年が経った今もなお、日本フィルハーモニー交響楽団は被災された方々へ「人々の思い」を「音楽」という形で届ける支援活動を続けています。それは、単なる音楽活動ではなく、『心の復興』へ向けた願いが込められたものだと伺いました。

テレビ画面から流れるドキュメンタリー映像とともに、祈りを込めて演奏されたマーラー交響曲第五番。あの日の自分の記憶と気持ちとが重なり合い、その美しい旋律に心静かに聴き入りまた

そして、改めて、危機的状況下でリーダーシップを発揮し、公演を実行した両楽団と指揮者の勇気と覚悟に敬意を表します。

相原 滋樹Shigeki Aihara

ジュピター・アンド・カンパニー株式会社 
代表取締役

ゴールドマン・サックス証券会社にて20年間勤務し、同社アジアパシフィック担当財務責任者を務める。2011年ジュピター・キャピタル・マネジメント株式会社(当時)を設立。RIZAPグループ株式会社財務戦略のサポートに従事し、2018年株式会社ウイルグループ執行役員CFOに就任。2021年株式会社お金のデザインChief Strategy Officerに就任。

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